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2013年8月 国際標準化機構(ISO)ナノテクノロジー専門委員会(TC229)に関する基礎知識

<国際標準化機構(ISO)とは>

国際標準化機構(International Organization for Standardization)は、世界最大の任意規格の作成機関である。ISOという略称は、ギリシア語で「同等」を意味する「isos」に由来する。1947年に18か国で発足。各国を代表する標準化機関をネットワークし、電気・電子技術分野を除く全産業分野(鉱工業、農業、医薬品等)に関して、年に4000程度のプロジェクトを動かし、年に1000以上の国際規格類を発行している。2012年末現在で、会員は164団体(各国1団体)、発行した国際規格類は19573、スイス・ジュネーブの中央事務局には154人の常勤職員が勤務し、3600万スイスフラン(34億円)の運営経費を要している。日本は、日本工業標準調査会(JISC、工業標準化法第3条第1項に基づき経済産業省に設置される審議会)が参加している。

なお、電気・電子技術分野の国際規格を作成しているIECは、正式名称を国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)といい、1906年に13か国で発足。2012年末現在で、会員は82団体(各国1団体)、発行した国際規格類は6971。

 

<ナノテクノロジー専門委員会(TC229)>

TC229は、ISOが2005年6月に設置したナノテクノロジー専門委員会である。TC229の議長は、製薬会社出身の英国人サイモン・ホランド博士、事務局は、英国規格協会(BSI)である。投票権をもったPメンバーが34、投票権のないOメンバーが13となっている。設置当初は、用語・命名法、計測・キャラクタリゼーション及び健康安全環境の三つの作業グループ(WG)構成であったが、2008年に中国の提案によって、材料規格の作業グループを新設した。国際電気標準会議(IEC)が2006年に設置した「電気電子製品・システムのナノテクノロジー標準化技術委員会」(TC113)との間で、JWG1(用語・命名法)とJWG2(計測・キャラクタリゼーション)が合同作業グループとなっている。2013年8月1日時点で、34点の標準化文書(国際規格3点、技術仕様書23点及び技術報告書8点)を発行している。

日本の参加団体JISCは、TC229のPメンバーであり、JWG2のコンビーナ(主査)とセクレタリ(幹事)を出している。上記発行済み標準化文書34点の提案国をみると、JISCが9点で最多である。TC229と対応する国内審議委員会の組織を次の図に示す。

 

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<ISOのナノテクノロジー用語>

ナノテクノロジーやナノ材料の用語や定義であって、法規制に用いることを必ずしも目的としていない代表的なものは、ISOが制定する標準化文書に見ることができる。こうしたナノテクノロジー用語に関する標準化文書の制定作業をしているのは、専らISOのTC229であり、特に、その四つのWGのうち、用語・命名法に関するWG(TC229/JWG1)である。その成果で重要なものは、技術仕様書(TS)80004シリーズであり、2013年8月1日時点での発行・作業状況は、以下のとおりである。

 

①ISO/TS 80004-1「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 1: Core terms」

2010年10月15日付けで発行済み。2013年に改正作業を開始。

②ISO/TS 80004-2「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 2: Nano-objects: Nanoparticle, nanofibre and nanoplate」

ISO/TS 27687「Nanotechnologies — Terminology and definitions for nano-objects — Nanoparticle, nanofibre and nanoplate」として2008年8月15日付けで発行済み。後日、誤字の修正版を発行済み。2012年に開始した見直し作業が完了すれば、ISO/TS 80004-2として発行する予定。

③ISO/TS 80004-3「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 3: Carbon nano-object」

2010年10月15日付けで発行済み。

④ISO/TS 80004-4「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 4: Nanostructured materials」

2011年12月1日付けで発行済み。

⑤ISO/TS 80004-5「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 5: Nano/bio interface」

2011年12月1日付けで発行済み。

⑥ISO/TS 80004-6「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 6: Nano-object characterisation」

発行について投票した結果、2012年11月7日付けで承認。今後、投票の際のコメントを解消して発行へ。

⑦ISO/TS 80004-7「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 7: Diagnostics and therapeutics for healthcare」

2011年10月1日付けで発行済み。

⑧ISO/TS 80004-8「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 8: Nanomanufacturing processes」

発行について投票した結果、2013年3月3日付けで承認。今後、投票の際のコメントを解消して発行へ。

⑨ISO/TS 80004-9「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 9: Nano-enabled electrotechnical products and systems」

新規事業提案について投票した結果、2012年10月5日付けで承認。現在作業中。

⑩ISO/TS 80004-10「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 10: Nano-enabled photonic components and systems」

新規事業提案について投票した結果、2012年10月5日付けで承認。現在作業中。

⑪ISO/TS 80004-11「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 11: Nanolayer, nanocoating, nanofilm and related terms」

新規事業提案について投票した結果、2012年12月3日付けで承認。現在作業中。

⑫ISO/TS 80004-12「Nanotechnologies — Vocabulary — Part 12: Quantum phenomena in nanotechnology」

新規事業提案について投票した結果、2013年2月12日付けで承認。現在作業中。

⑬ISO/TS 80004-X「Nanotechnologies — Vocabulary — Part X: Graphene and other two dimensional materials」

新規事業提案について2013年10月27日を期限に投票中。

 

ISOのウェブサイトにあるOnline Browsing Platform(https://www.iso.org/obp/ui/)の検索窓に規格番号(例:80004-7)を入力すれば、上記①~⑤と⑦の六つの発行済み用語TSを閲覧できる(索引を除く)。さらに、上記②のISO/TS 27687の初版(未修正版)については、日本規格協会が対訳版「ナノテクノロジー-ナノ物体の用語及び定義-ナノ粒子,ナノ繊維及びナノプレート」を出版した。

上記の用語TSのうち、特に重要なのが、ISO/TC229の最初の成果である②のTS 27687と、その2年後に発行された①のTS 80004-1である。これらでは、まず、「ナノスケールnanoscale」を「およそ1 nm~100 nmのサイズの範囲」と定義した。

そして、「ナノ材料nanomaterial」を「3次元のうちのいずれかの次元でナノスケールの外寸をもつ材料又はナノスケールの内部構造若しくは表面構造をもつ材料」と定義した。

この「ナノ材料」を「ナノ物体nano-object」と「ナノ構造化材料nanostructured material」の二つに分け、前者を「3次元のうちの一つ、二つ又は三つの次元でナノスケールの外寸をもつ材料」と定義し、後者を「内部ナノ構造又は外部ナノ構造をもつ材料」と定義した。

さらに、「ナノ物体」を三つに分け、「3次元のうちの三つ全ての次元でナノスケールの外寸をもつナノ物体」である「ナノ粒子nanoparticle」、「3次元のうちの二つの次元で同じようなナノスケールの外寸をもち、三つ目の次元で顕著に大きな外寸をもつナノ物体」である「ナノファイバnanofibre」、「3次元のうちの一つの次元でナノスケールの外寸をもち、他の二つの次元で顕著に大きな外寸をもつナノ物体」である「ナノプレートnanoplate」を定義した。

さらに、「ナノファイバ」を二つに分け、「中空のナノファイバ」である「ナノチューブ nanotube」、「中身が詰まったナノファイバ」である「ナノロッドnanorod」を定義した。

これら八つの用語の階層関係を次の図に示す。

 

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なお、TC229の四つのWGのうち、健康・安全・環境に関するWG(TC229/WG3)が制定に取り組んでいる標準化文書の多くは、ナノ材料を扱う作業者の健康リスクを低減することや、そうしたナノ材料の有害性評価を目的としたものである。その標準化文書の対象としては、ナノ物体と、ナノ物体が凝集してナノスケールよりも大きくなったもの(ナノ構造化材料の一種である。)との両方が挙げられ、両方まとめて指し示す用語が必要になった。ナノ材料の下位概念であるナノ構造化材料は、定義として、表面や内部にナノスケールの空隙(隙間、穴、くぼみ等)をもっているものも含むため、作業者健康リスク低減対策や有害性評価の対象として考えにくいという事情がある。

TC229/WG3では、これを「ナノ物体並びに100 nmより大きなそれらの強凝集体及び弱凝集体Nano-objects, and their aggregates and agglomerates greater than 100 nm」と仮に定義し、頭文字を取って「NOAA」(ノア)と呼ぶことにした。用語NOAAを使った最初の標準化文書は、2012年5月15日付け発行のISO/TR 13014「Nanotechnologies –Guidance on physic-chemical characterization of engineered nanoscale materials for toxicologic assessment」である。これは、2011年10月に欧州委員会が発出したナノマテリアルの定義に関する勧告の「ナノマテリアル」とおおむね同様の概念であり、また、2009年3月に我が国の厚生労働省労働基準局長が発出した通達「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」の「ナノマテリアル」と同じ概念である。

<TC229/WG3(健康・安全・環境作業グループ)の活動状況>

●WG3の活動に基づいて、以下の標準化文書9点が発行されている(2013年8月1日現在、発行順)。ここで、PGとは、プロジェクト・グループのことで、作業グループごとに新規事業提案が承認された順番に番号が振られている。

・ISO/TR 12885 Nanotechnologies — Health and safety practices in occupational settings relevant to nanotechnologies (PG1、米国提案、2008年10月1日付け発行)

・ISO 29701 Nanotechnologies — Endotoxin test on nanomaterial samples for in vitro systems — Limulus amebocyte lysate (LAL) test (PG2、日本提案、2010年9月15日付け発行)

・ISO 10801 Nanotechnologies — Generation of metal nanoparticles for inhalation toxicity testing using the evaporation/condensation method (PG3、韓国提案、2010年12月15日付け発行)

・ISO 10808 Nanotechnologies — Characterization of nanoparticles in inhalation exposure chambers for inhalation toxicity testing (PG4、韓国提案、2010年12月15日付け発行)

・ISO/TR 13121 Nanotechnologies — Nanomaterial risk evaluation (PG7、米国提案、2011年5月15日付け発行)

・ISO/TR 13014 Nanotechnologies — Guidance on physico-chemical characterization of engineered nanoscale materials for toxicologic assessment (PG5、米国提案、2012年5月15日付け発行、2012年7月15日付け正誤票発行)

・ISO/TS 14101 Surface characterization of gold nanoparticles for nanomaterial specific toxicity screening: FT-IR method (PG10、韓国提案、2012年11月1日付け発行)

・ISO/TS 12901-1 Nanotechnologies — Occupational risk management applied to engineered nanomaterials — Part 1: Principles and approaches (PG6、英国提案、2012年11月15日付け発行)

・ISO/TR 13329 Nanomaterials — Preparation of Material Safety Data Sheet (MSDS) (PG9、韓国提案、2012年12月1日付け発行)

 

●最終案に対する投票の結果、発行が承認され、投票の際の修正意見を解消している段階にある標準化文書1点がある。

・ISO/TS 12901-2 Nanotechnologies — Occupational risk management applied to engineered nanomaterials — Part 2: The use of the Control Banding approach in occupational risk management (PG8、フランス提案、2013年2月21日付けで発行承認)

これは、十分な毒性情報が不足している状況において、また、暴露レベル測定に基づく定量的な情報が十分ではない状況において、ナノマテリアルのリスク評価とリスク管理を行う実用的な手法であるコントロールバンディングを活用することを意図した技術仕様書である。コントロールバンディングは、1990年代以降、中小企業など安全衛生リソースの十分でない現場で化学物質の適切な管理を行う手法として注目されるようになったもので、英国安全衛生庁(the Health and Safety Executive、HSE)によるCOSHH Essentialsと呼ばれる枠組みがよく知られている。

 

●最終案に対する投票中の標準化文書2点がある。

・ISO/TS 16550 Nanoparticles — Determination of silver nanoparticles potency by release of muramic acid from Staphylococcus aureus (PG13、イラン提案、投票期限2013年10月25日)

・ISO/TS 13830 Nanotechnologies — Guidance on voluntary labelling for consumer products containing manufactured nano-objects (PG14、欧州提案、投票期限2013年11月1日)

2011年1月の投票で否決された際のこのTS案の内容・問題点について→クリック

 

●以下の案件について作業が進行中又は新規事業案件提案(NWIP)が最近承認されている。件名は、随時変更されるところ、最新のものを記載した。

・PG11 米国提案 ISO/TR 16197 Nanotechnologies — Compilation and description of toxicological screening methods for manufactured nanomaterials

・PG12 米国提案 ISO/TR 16196 Nanotechnologies — Compilation and description of sample preparation and dosing methods for manufactured nanomaterials

・PG15 米国提案 ISO/TR 18637 Nanotechnologies — General framework for the development of occupational exposure limits for nano-objects and their aggregates and agglomerates (2013年2月12日付けでNWIP承認)

・PG16 韓国提案 ISO/TS 18827 Nanotechnologies — Electron spin resonance (ESR) as a method for measuring reactive oxygen species (ROS) generated by metal oxide nanomaterial (2013年4月25日付けでNWIP承認)

・PG17 米国提案 IS “Modified MTS Assay for measuring the effect of nanoparticles on cell viability” (2013年5月7日付けでNWIP承認)

・PG18 米国提案 IS “DCFH-DA Assay for evaluating nanoparticle-induced intracellular ROS production” (2013年5月7日付けでNWIP承認)

・PG19 南アフリカ提案 TR “Use and suitability of in vitro tests and methodologies to assess nanomaterial biodurability” (2013年5月22日付けでNWIP承認)

 

●以下の新規事業案件提案(NWIP)が投票中である。

・日本提案 TS “Evaluation methods of the validity of nanomaterial working dispersions used for in vitro toxicity testing” (投票期限2013年10月4日)

このNWIPは、以下の研究開発プロジェクトにおける、培養細胞を用いた有害性評価手法のためのナノ材料の分散調製技術の開発の成果に基づいており、岐阜大学の岩橋均教授がプロジェクトリーダーを務めている。

・終了したNEDOプロジェクト「ナノ粒子特性評価手法の研究開発

・技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)で実施中のNEDOプロジェクト「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発