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2013年8月 経済協力開発機構(OECD)工業ナノ材料作業部会(WPMN)に関する基礎知識

<OECDとは>

経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)は、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、1) 経済成長、2) 貿易自由化、3) 途上国支援に貢献することを目的(「OECDの三大目的」)とするOECD条約に基づく国際機関である。経済政策・分析、規制制度・構造改革、貿易・投資、環境・持続可能な開発、ガバナンス(統治)、非加盟国協力等の分野で活発に活動している。相互審査(ピア・レビュー)等を通じて「先進国標準」が醸成されていくところに特色があり、加盟国は、こうしたOECDの活動への参加を通じて、自国の経済・社会政策や制度を調整・改善する機会を得ている。

 

意志決定機関として理事会があり、閣僚レベルが参加する閣僚理事会(年1回開催)と常任代表による通常理事会(頻繁に開催)がある。主要課題を検討する場として新執行委員会(年2回開催)がある。こうしたOECD全体の活動について検討する機関に加え、経済政策委員会、貿易委員会、開発援助委員会等、全体で約30の各種委員会があり、年次作業計画に沿って、作業部会や専門家グル-プの補佐を受けながら、また、経済界の代表から成る経済産業諮問委員会(BIAC)や労働組合の代表から成る労働組合諮問委員会(TUAC)の助言に耳を傾けながら、研究調査等の活動を行っている。

 

<環境健康安全(EHS)プログラム>

OECDの化学品安全に関する作業は、環境健康安全(EHS)プログラムの下で実施されている。EHSプログラムは、環境政策委員会(EPOC)の下の化学品・農薬・バイオテクノロジー作業部会と化学品委員会との合同会合(JM、化学品合同会合ともいう。)が統括している。EHSプログラムには、以下の活動があり、各活動を統括する作業グループ、タスクフォース等が組織されている。

  • テストガイドライン・プログラム
  • 優良試験所基準(GLP)と順守監視
  • 暴露評価プログラム
  • リスク管理プログラム
  • ハザード評価プログラム
  • 新規化学物質届出と評価の効率の改善
  • 分類・表示システムの調和
  • 農薬プログラム
  • 殺生物剤プログラム
  • 化学事故プログラム
  • 環境汚染物質排出移動登録(PRTR)プログラム
  • バイオテクノロジーの規制管理の調和
  • 新規の食品・飼料の安全性
  • 工業ナノ材料の安全性

 

<OECDテストガイドライン>

OECDテストガイドラインは、政府・産業界・試験機関によって化学品の安全性を決定するために用いられる、最も妥当な国際的に合意された試験方法の集合体である。化学品評価のためのデータ相互受入れ(MAD)に関する1981年理事会決定文書[C(81)30]の附属書Ⅰに収録されている。MAD制度では、OECD加盟国やMAD順守非加盟国でヒトや環境の保護に関して行われた化学品評価試験の結果は、その試験がOECDテストガイドラインとOECD優良試験所基準(GLP)原則に従って行われたのであれば、他の加盟国やMAD順守非加盟国によって受け入れられなければならない。

 

OECDテストガイドラインは、2007年1月からOECDウェブサイトから無料でダウンロードできるようになった。第1部:物理化学性状、第2部:生物系への影響、第3部:分解性及び蓄積性、第4部:ヒトの健康への影響、第5部:その他のテストガイドライン(第1~4部に該当しないもの。例:作物・家畜への農薬残留性等)に分かれている。例えば、吸入毒性試験に関しては、第4部に以下のものがある。

Test No. 403:   Acute Inhalation Toxicity

Test No. 412:   Subacute Inhalation Toxicity: 28-Day Study

Test No. 413:   Subchronic Inhalation Toxicity: 90-day Study

Test No. 436:   Acute Inhalation Toxicity – Acute Toxic Class Method

 

テストガイドラインを補完し、また、最新の科学技術に基づく評価手法の行政利用を促すために、ガイダンス文書、評価文書等の多様な文書が「試験と評価シリーズ」として一般公開されており、OECDウェブサイトから無料でダウンロードできる。例えば、吸入毒性試験に関しては、以下のものがある。

No 39:    Guidance Document on Acute Inhalation Toxicity Testing

No 105:   Report on Biostatistical Performance Assessment of the Draft TG 436 Acute Toxic Class Testing Method for Acute Inhalation Toxicity

No 125:   Guidance Document on Histopathology for Inhalation Toxicity Studies, Supporting TG 412 (Subacute Inhalation Toxicity: 28-day Study) and TG 413 (Subchronic Inhalation Toxicity: 90-day Study)

 

OECDテストガイドラインの制定・改正は、通常、以下の段階を経て、最終的には、前述の1981年理事会決定文書[C(81)30]の附属書Ⅰの修正となる。

  1. テストガイドライン・プログラムの作業計画に加えるためにナショナル・コーディネーター、欧州委員会又はOECD事務局によるプロジェクトの提出。必ずSPSFを用いる。
  2. 検証(バリデーション)とピア・レビュー。どの試験方法もOECDテストガイドラインになる前に、検証されなければならない(ガイダンス文書No. 34「ハザード評価のための新規又は更新試験方法の検証と国際的受入れ」)。検証は、WNTで合意したプロセスを経てピア・レビューされる。
  3. テストガイドライン案の専門家による議論とWNTの合意
  4. WNTによる承認から理事会による承認までの採択プロセス

 

WNTとは、「テストガイドライン・プログラムのナショナル・コーディネーター作業部会Working Group of National Co-ordinators of the Test Guidelines Programme」のことである。化学品合同会合の下で、OECDのEHSプログラムのテストガイドライン・プログラムを統括する組織であり、加盟国やMAD順守非加盟国の政府が指名するナショナル・コーディネーターをメンバーとする。毎年4月前後に会合を開催しており、SPSFの提出期限は、会合の2か月前である。

 

SPSFとは、「標準プロジェクト提出様式Standard Project Submission Form」のことである。個別のOECDテストガイドライン又はガイドライン関連文書(ガイダンス文書等)の制定・改正のプロジェクトをOECDテストガイドライン・プログラムの作業計画に加えるために用いる。SPSFは、制定・改正プロジェクトの詳細な説明及び提案国による作業予定を記述するもので、前者については、特に以下の情報を要求している。

  • その試験(又は更新)についての予想される又は現在の規制ニーズ
  • データ要求の国際調和への貢献
  • その試験(又は修正)の重要性を示す科学的議論
  • 提案する試験・手順について、必須の情報を失わず動物の使用・不快の面で利点があることを示す、動物福祉の説明
  • 提案する試験・手順について、必須の情報を失わず費用削減の面で利点があることを示す、理論的根拠
  • 試験方法のパフォーマンス、検証状況、信頼性・妥当性等に係る補足資料

 

<工業ナノ材料作業部会>

工業ナノ材料作業部会(WPMN:Working Party on Manufactured Nanomaterials)は、2006年にOECD化学品委員会に設置した組織であり、OECDのEHSプログラムの工業ナノ材料の安全性に関する活動を統括している。

備考:OECD科学技術政策委員会(CSTP)の組織であるナノテクノロジー作業部会(WPN: Working Party on Nanotechnologies)と混同しないよう、注意が必要である。

WPMNの活動は、個別のナノ材料の有害性評価を確立することを目的としておらず、例えば、化学物質管理法令に基づく工業ナノ材料の評価のツールとして、現行のOECDテストガイドラインへの追加や修正が必要かどうかというのが主要な問題意識である。特に、化学品委員会によるWPMN活動の中間評価に沿って、2012年6月のWPMN第10回会合で、これまでの知見の集積のための活動から規制面を意識した活動へ転換していく方針が打ち出され、現在、プロジェクト及びその運営グループ(SG)を「工業ナノ材料の試験と評価」、「リスク評価と規制プログラム」、「暴露計測と暴露低減」及び「環境上持続可能なナノテクノロジーの利用」の四つに再編する途上にある。

 

このうち、「工業ナノ材料の試験と評価」では、吸入毒性、環境運命、生態毒性等に関するいくつかのテストガイドラインやガイダンス文書について、ナノ材料を扱うための改正作業を提案するSPSFの作案が2013年11月を目途に進行している。日本は、米国・オランダが主導する吸入毒性テストガイドラインSPSFの作案に参加している。

WPMNの活動の成果は、文書に取りまとめられ、「工業ナノ材料の安全性シリーズ」として一般公開されており、OECDウェブサイトから無料でダウンロードできる。

 

<スポンサーシッププログラム>

WPMNの代表的な活動は、「工業ナノ材料の試験に関するOECDスポンサーシッププログラムOECD’s Sponsorship Programme on the Testing on Manufactured Nanomaterials」である。スポンサーシッププログラムの第1期は、WPMNが統括する第3プロジェクト「工業ナノ材料の代表的セットの安全性試験」運営グループ(SG3)によって運営され、2013年3月で公式終了した。

 

WPMNは、まず、工業ナノ材料の代表的セット(当初14材料、2010年7月から13材料)と試験データを収集すべきエンドポイント(物理化学性状、環境運命、生態毒性及び哺乳類毒性の全59項目)を決定した(工業ナノ材料の安全性シリーズNo.6・No.27)。これに基づき、2007年11月のWPMN第3回会合でスポンサーシッププログラムの実施を合意し、各材料の主スポンサー(Lead Sponsor)、共同スポンサー(Co-Sponsors)及び貢献者(Contributors)を募集した。主スポンサーは、各材料のドシエと呼ぶ文書の取りまとめに責任を負い、共同スポンサーや貢献者と協力してドシエ作成計画(DDP)を立案した。DDPの中で、全てのエンドポイントについて試験データ(既存文献によるものを含む。)を収集することにした特定の材料を主要材料(Principal Material)と呼ぶ。WPMNは、DDP立案と試験実施を支援するため、ガイダンス・マニュアルを策定し(工業ナノ材料の安全性シリーズNo.14・No.25)、さらに、ナノ材料の試験で共通の問題として認識された試料調製と用量測定に関してガイダンス文書を策定した(工業ナノ材料の安全性シリーズNo.24・No.36)。ドシエは、EHSプログラムの化学物質共同評価会議(CoCAM)に提出されるロバスト・スタディ・サマリ(Robust Study Summary)と同様の形式で作成することが想定され、また、収録する試験データは、一般公開可能なものに限ることとした。

 

ドシエの作成は、当初予定からとめどなく遅れてきた。2013年2月のWPMN第11回会合で、スポンサーシッププログラム第1期の同年3月終了を確認し、同年6月21日までのドシエ案提出を合意したものの、この期限に間に合ったのは、炭素系3材料だけだった。遅れの原因は、生態毒性試験における試料調製やナノ材料検出の困難、試験実施者の著作権との調整の困難等が言われている。

第1期の代表的ナノ材料(2010年7月にカーボンブラックとポリスチレンを除外、金ナノ粒子を追加。)とその主スポンサーを以下に示す。

① フラーレン                        主スポンサー:日本・米国

② 単層CNT                         主スポンサー:日本・米国

③ 多層CNT                         主スポンサー:日本・米国

④ 銀ナノ粒子                      主スポンサー:韓国・米国

⑤ 鉄ナノ粒子                      主スポンサー:中国 実際は酸化第二鉄を使用

⑥ 二酸化チタン                   主スポンサー:フランス・ドイツ

⑦ 酸化セリウム                   主スポンサー:英国+BIAC(NIA)・米国

⑧ 酸化亜鉛                        主スポンサー:英国+BIAC(NIA)

⑨ 二酸化ケイ素                  主スポンサー:欧州委員会・フランス

⑩ 金ナノ粒子                      主スポンサー:南アフリカ

⑪ ナノクレイ                        主スポンサー:BIAC(NIA) 一部項目のみ

⑫ 酸化アルミニウム            主スポンサーなし

⑬ デンドリマー                    主スポンサーなし

 

<その他のWPMNの活動>

スポンサーシッププログラム以外のWPMNの活動の成果に基づいて、「工業ナノ材料の安全性シリーズ」から一般公開済み又は公開予定のタイトルをいくつか以下に挙げておく。

  • No. 28「Compilation and Comparison of Guidelines Related to Exposure to Nanomaterials in Laboratories」 2010年12月1日付けENV/JM/MONO(2010)47
  • No. 30「Regulated Nanomaterials: 2006-2009」 2011年12月16日付けENV/JM/MONO(2011)52
  • No. 31「Information Gathering Schemes on Nanomaterials: Lessons Learned and Reported Information」 2011年12月16日付けENV/JM/MONO(2011)53
  • No. 32「National Activities on Life Cycle Assessment of Nanomaterials」 2011年12月16日付けENV/JM/MONO(2011)54
  • No. 33「Important Issues on Risk Assessment of Manufactured Nanomaterials」 2012年3月28日付けENV/JM/MONO(2012)8
  • No. 35「Inhalation Toxicity Testing: Expert Meeting on Potential Revisions to OECD Test Guidelines and Guidance Document」 2012年6月19日付けENV/JM/MONO(2012)14
  • No. 36「Guidance on Sample Preparation and Dosimetry for the Safety Testing of Manufactured Nanomaterials」 2012年12月18日付けENV/JM/MONO(2012)40

 

<工業ナノ材料の安全性試験と評価に関するOECD理事会勧告>

「工業ナノ材料の安全性試験と評価に関するOECD理事会勧告」案について説明する。WPMNの親委員会である化学品委員会の指示に基づき、OECD事務局がWPMNプログラムの中間評価を踏まえ、勧告案を作成し、2013年2月のWPMN第11回会合で検討した。OECD理事会勧告は、法的拘束力はないが政治的拘束力があるとされ、過去の例としては、「PRTRの実施に関する理事会勧告」[C(96)41]が有名である。

 

本件勧告案は、加盟国に対して、ナノ材料のリスク管理に当たっては、化学物質用のテストガイドラインに加え、ナノ材料の特性に対応するため勧告附属書に掲げるWPMNによる4文書を踏まえること、ナノ材料の安全性データを一般に公開すること等を求めている。WPMNの議論を踏まえた勧告案は、2013年6月の化学品合同会合で承認され、2013年9月の理事会で採択を求めることになった。以下に、勧告案の勧告本文9項目の和訳を示す。


第1項 工業ナノ材料のリスクを管理するため、既存の国際的及び国家的な化学品規制の枠組み又はその他の管理システムを、工業ナノ材料特有の特性を勘案して適宜変更して、適用するよう、加盟国に勧告する。当該変更の目的のために、加盟国は、本勧告の一部を成す附属書に記載の文書が挙げるツールを用いるべきである。この附属書は、下記第7項に従って化学品委員会が改定するかもしれない。

第2項 工業ナノ材料の試験に当たって、OECDテストガイドライン(工業ナノ材料特有の特性を勘案して適宜変更して、本勧告の附属書の第1節に掲げるツールを用いながら)及びOECD 優良試験所基準(GLP)原則を適用するよう、加盟国に勧告する。

第3項 工業ナノ材料特有の新テストガイドラインを含めるため又は工業ナノ材料に関する経験から既存テストガイドラインを改定するため、適宜、OECD手続規則に従い、OECDテストガイドラインを更新するよう、加盟国に勧告する。

第4項 取組が必要なナノ材料の安全性試験及び評価に係る技術的事項(例えば、他の国際的取組への参画、工業ナノ材料特有のツールの開発・更新、本勧告附属書に収載の文書への修正提案)を定期的に化学品委員会に通知するよう、加盟国に勧告する。

第5項 ナノ材料に関連する安全性データを一般に公開するよう、加盟国に勧告する。

  第6項 以下を要請する。

・データ相互受入れに関する理事会決定・勧告を順守している非加盟国は、この勧告を順守すること。

・その他の非加盟国は、この勧告を順守するとともに、その実施について加盟国及びデータ相互受入れに関する理事会決定・勧告を順守している非加盟国と協力すること。

・加盟国及び順守非加盟国は、全ての関係者及び他の国際機関にこの勧告を普及させること。

第7項 上記第4項に従って加盟国が提供する情報に鑑み、適宜、附属書に記載の文書を改定し、又は新しい文書を追加するよう、化学品委員会に指示する。

第8項 ナノ材料の分野でOECD及びその加盟国が開発するプログラム及び活動への参加について非加盟国に情報提供し、助言し、勧めるとの見地から、この勧告の国際的認識を高めるよう、化学品委員会に指示する。

第9項 この勧告の実施の技術的側面を詳しく監視し、採択後3年間は(及びその後も適宜)理事会に報告するよう、化学品委員会に指示する。


 

なお、勧告の附属書が掲げる文書は、以下の4点である。いずれも「工業ナノ材料の安全性シリーズ」から一般公開されている。

Ⅰ試験

Preliminary Review of OECD Test Guidelines for their Applicability to Manufactured Nanomaterials ENV/JM/MONO(2009)21

Guidance on Sample Preparation and Dosimetry for the Safety Testing of Manufactured Nanomaterials ENV/JM/MONO(2012)40

Ⅱ暴露評価

Identification, Compilation and Analysis of Guidance Information for Exposure Measurement and Exposure Mitigation: Manufactured Nanomaterials ENV/JM/MONO(2009)15

Ⅲリスク評価

Important Issues in Risk Assessment of Manufactured Nanomaterials ENV/JM/MONO(2012)8