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2015年4月 米国EPAがTSCAに基づくナノマテリアル報告及び記録保管規則案を公表

2015年3月25日、米国EPAは、ナノスケールマテリアルとして製造(輸入を含む)又は加工される化学物質について有害物質規制法(TSCA)セクション8(a)に基づく報告及び記録保管規則提案文を発表した。同提案文は、4月6日付け連邦官報に掲載された。ナノスケールマテリアルの報告及び記録保管規則は、EPAが2009年秋から構想していたものである。官報掲載日から90日間(期限7月6日)、パブリックコメントが募集される。連邦官報に掲載された規則提案文は、A4版13ページのうち最後3ページが実質的な規則案で、ほとんどは背景解説、要請等である。後述するドケットからインターネット経由でコンピュータ画面に表示される規則提案文も読みやすい。EPAのプレス発表文Q&Aも参照されたい。

【報告対象の化学物質の定義】

「報告対象の化学物質」(reportable chemical substance)を以下のとおり定義している。

・25℃・大気圧で固体であり、一次粒子又は凝集体が1~100ナノメートルのサイズ範囲にあり、かつ、そのサイズゆえに固有かつ新規の特性を示す、という状態に製造又は加工される化学物質

・これには、1~100ナノメートルのサイズ範囲にある一次粒子又は凝集体を痕跡量しか有しない化学物質を含めない(そのような化学物質は、そのサイズゆえに固有かつ新規の特性を示すことはない)。

※この定義は、本規則の対象となる化学物質を特定するために提案したものであり、ナノスケールマテリアルの(一般的な)定義を確立するためのものではないことが規則提案文の解説部分に明記されている。

【識別可能な状態の定義】

同じ「報告対象の化学物質」について複数の状態のものを製造・加工している場合、「識別可能な状態」(discrete form)ごとに報告する必要がある。異なる「識別可能な状態」は、以下の(1)、(2)又は(3)のいずれかであると定義されている。

(1) 以下の(i)、(ii)及び(iii)の全てに該当する:

(i) サイズや特性(ゼータ電位・比表面積・分散安定性・表面反応性の4項目のうち少なくとも1項目)に変化を与える工程の変化がある

(ii) 平均粒子径に標準偏差の7倍超の違いがある

(iii) ゼータ電位・比表面積・分散安定性・表面反応性の4項目の計測値のうち少なくとも1項目で標準偏差の7倍超の違いがある

(2) 異なる形状である(例:球状、棒状(桿(かん)状)、楕(だ)円体、円筒状、針状、ワイヤ状、繊維状、かご状、殻状、樹状、花状、環状、ドーナツ状、円錐状及びシート状)

(3) 製造・加工工程の終わりで他の化学物質又は混合物でコートされている場合、そのコートする化学物質又は混合物が異なる

※「識別可能な状態」の定義の(1)の(ii)の平均粒子径の違いについて、規則提案文の解説部分では「10%超」とし、末尾の規則案では「標準偏差の7倍超」としている。この食い違いについて連邦官報掲載前に五十嵐がEPA担当者に知らせたので、回答があれば追って掲載する。

【除外規定】

・以下の化学物質は、報告対象から除外:酸化亜鉛、ナノクレイ、フィルムの表面の一部であるもの、DNA、RNA、タンパク、水中で完全に解離し1ナノメートル未満のイオンを形成するもの。

※規則提案文の解説部分では、酸化亜鉛とナノクレイを除外する理由として、「have been well-characterized」であることを挙げている。

・2015年1月1日以降、TSCAに基づいて当該化学物質の届出をしている場合は、報告免除(識別可能な状態の製造・加工の場合を除く)。

・年間売上げが400万ドル未満の小企業は、報告免除(年間最大製造量の要件を設けない)。

・2008年1月から2009年12月まで実施されたナノスケールマテリアル・ステュワードシップ・プログラム(NMSP)で当該化学物質の情報を提供している場合、その情報は報告免除(識別可能な状態の製造・加工の場合を除く)。

※規則提案文の解説部分によれば、TSCAセクション3(2)に規定する化学物質、すなわち、食品、食品添加物、医薬品、化粧品、医療機器、防除剤等である化学物質、並びに成形品を構成するもの、不純物であるもの、及び研究開発のための少量も対象から除外される。

【報告の対象者と報告時期】

①    規則発効日前3年間に、識別可能な状態の報告対象の化学物質を製造(輸入を含む)又は加工した者は、規則発効後6か月以内に報告する(1回限り、EPAのCDXシステムによる電子報告)。

②    上記①の報告をしておらず、規則発効後に、識別可能な状態の報告対象の化学物質を製造(輸入を含む)又は加工を開始しようとする者は、開始の135日前までに報告する(1回限り、EPAのCDXシステムによる電子報告)。

【報告すべき情報:11項目

・化学物質を特定する情報(CAS番号や分子式)

・材料特性(粒子径、形態、表面修飾)

・物理化学特性

・製造、加工、使用又は廃棄による不純物・副生物の最大重量パーセント

・上記①の報告の場合、規則発効前の3年間の年間生産量及び規則発効後2年間における連続する12か月間の予想最大生産量、上記②の報告の場合、12か月間の予想最大生産量及び製造の最初の3年間における連続する12か月間の予想最大生産量 (①②とも予想生産量は固体のナノスケールマテリアルの識別可能な状態で100%換算)

・用途情報:機能及び応用分野によって説明される各用途のカテゴリー、用途カテゴリーごとの予想される製造・加工量、及び用途ごとに予想される製剤中のパーセント

・製造・加工方法の詳細

・暴露情報:雇用場所での暴露予想人数と暴露をもたらす作業内容・期間、一般市民・消費者の暴露の内容と予想規模

・放出情報:予想放出量、放出をもたらす活動内容・期間、放出は環境へ直接か制御技術(control technology)を通してか

・リスク管理の取組:個人保護具、工程管理、制御技術(control technologies used)、危害警告文書、表示、SDS(安全データシート)、顧客訓練、その他暴露が予想される者へ提供する情報(保護具又は安全な取扱い・輸送・使用・廃棄の取組)

・環境及び健康影響に関する既存データ

【その他】

・記録の保管

報告者は、報告書及び報告したデータの復元に必要な資料を3年間保管する義務がある。

・秘密情報の指定

報告者は、報告内容の一部又は全部を営業[企業]秘密情報(CBI)として指定できる。

【EPAが特に要請するコメント】

パブリックコメントは、規則提案文の全文が対象ではあるが、特に以下の論点を中心に募集し、また、プブリックコメント期間中の公開討論会の開催が準備されている。

・論点1 報告対象の化学物質の特定(定義)に関して

・論点2 報告対象の化学物質の「識別可能な状態」の定義に関して

・論点3 「識別可能な状態」の報告が製造又は加工の開始の135日前まで(通常の製造前届出(PMN)は90日前まで)である点に関して

・論点4 規則案の経済分析のために必要な、規則施行による費用増分や経済的影響に関する情報について

・論点5 電子報告システムを採用することに関して

・論点6 将来的な規則として、定期的報告を求める可能性に関して

※過去に、FDAの規則提案のパブリックコメントに対し、JETROが日本の業界を代表してコメントを提出した例が10件以上あるように、日本人でもコメントを提出できる。コメント作成に当たっては、この記事の内容によらず、連邦官報掲載版を参照していただきたい。

【ドケットに関する追記】

米国連邦政府では、法的措置のために作成・収集した文書、関連資料等を逐次収録し公開する「ドケット (doocket)」と呼ばれる文書管理庫を案件ごとに設けており、www.regulations.govからオンラインで閲覧できる。寄せられたパブリックコメントも逐次公開される。本件規則提案のドケット番号は、EPA-HQ-OPPT-2010-0572であり、現時点で、規則提案文のほか、関連文書60点が収録されている。この中には、規則提案文の解説部分で参照された29点も含まれている。ただし、ISO標準化文書(有料)は、文書名の表示だけであり、有料の論文は、紙での閲覧に限られている。

(文責 五十嵐卓也、岸本充生)